秋、進む
これは、巻雲って呼ぶのかな。
空の高いところに漂っている雲。
田無駅、アスタ専門店街に続くデッキの上で。
秋は空が高いのだ。
先週の金曜日、
母の病院へ行くつもりで身支度をしていたら、
姉から電話があった。
母が前日の晩に熱を出し、
インフルエンザの可能性も否定できないため
病室を移動して、様子を見ているとのこと。
翌朝確認の電話を入れると、
母の熱はすでに下がっていて、新型インフルエンザも陰性だったという。
それでも万が一を考慮して、母は熱のある人を集めた病室に
カーテンを引いて隔離されていたらしい。
週明けまで家族の面会も控えてほしいとのことだった。
やはり病院側も時期が時期だけに、
対応が過敏になっているのは仕方のないことだし、有難いことでもある。
先週は姉の都合やらで、結局5日間、娘の誰とも面会できなかった母は、
今日私が病室を訪れると、眉を八の字にして喜ぶ。
「やっぱり、家族が来てくれると嬉しいね」と言う。
丸一週間お風呂に入っていない母は、
あっという間に薄汚れた感じになってしまっていた。
娘たちが持参する、高カロリーの美味しいおやつを食べることも
なかったせいか、いくらか頬がこけたように見える。
顔を何度も拭いたり、耳を掃除したり、手足の爪を切ったり、
顔の毛を剃ったり、足をもんだり首をもんだり、
今日はやることがたくさんあった。
「今度はいつ来るの?」と母が訊くので、
「たぶん、金曜日に来ると思うけど」と答えると、
「金曜日って何曜日?」と言う。
「金曜は金曜よぉ~」と私が言うと、
「違うよわ。何日なのよ?」と母は言う。
「この頃、何曜日が何日か、わかんなくなっちゃった…」
母は大切なものを失くしてしまったように呟く。
「そんなもん、私だって、いつだってわかんないわよ」
それは事実だ。
だけど私たちは、カレンダーや手帳を見て、
いつだって容易に確認することができるし、
時間も曜日もすべてのことが、自分の掌に握られていると、
自分の思いのままに操ることができると、
そんなふうに思っているだけだ。
行きたいところへ歩いて行ったり、
欲しいものを手にしたりすることができないどころか、
枕の位置が気に入らなくてもどうしようもないとか、
布団がズレて足元が冷えても直せないとか、
背中のあたりで下着とパジャマの裾がまるまって
モソモソするのを我慢するしかないとか、そんなふうに
自発的に何かをする身体の自由がほとんど奪われた状態で、
見当識が少しずつ狂いはじめ、
今日が何曜日の何日なのか、
あの人が来たのが昨日だったのか一昨日だったのか、
そういうことが少しずつ「わからなくなってしまった」と感じることの
本当の意味や不安や怖れを実感するのは、
間違いなく本人しかできないことだろうと思う。
母と話をしている最中に、ふいに母が右手をかざす。
「なに?」と訊くと、「爪」と言う。
ああ、爪を切ってほしいのね。
しばらく独りだったから、何かと要求が多いのね。淋しかったのね。
そしてまた母と何かの話題で話していると、
ふいに、「今、何してるか? おしっこ」
と、自分で訊いて、自分で即答している。
私と話していることの内容よりも、自分が今、オムツの中に
放っているおしっこのことに、気持ちが集中していたのだろう。
考えてみれば、ごく自然なことかもしれない。
「くっだらないわねぇ~」と、軽く笑い飛ばしておいた。
少しずつ少しずつ、でも確実に、母の認知症は進行しているんだなと思う。
| 固定リンク
|
「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事
「母」カテゴリの記事
- バンド、新春巡業(2010.01.02)
- 母と私の2010年(2009.12.26)
- 母の勘ぐり(2009.12.15)
- ニゲヤガッタナ、コノヤロー(2009.12.07)
- 暮れてゆく(2009.11.27)



コメント
ウチの母も先週は少し危なかったんです(>_<)
微熱が続き食欲もなく点滴していました。
レビーの人は進行が早いと聞いていましたが
お年寄りは一般的にもがたっと悪くなる様です。
もう歩行も無理になりました。
幻視が増えて認知症も進んだ気がします(‥、)
でも1日行かないと捨てられたかと思った、、
なんて事も言います。それにしても
私は前の母より今の母のほうが
かわいいなあ、と思えるのです。
変な感覚ですね。
お母様お大事になさって下さいね。
投稿: 時の彼方 | 2009年10月20日 (火) 09時43分
時の彼方さん
そうですよね、ある時ぐぐっと進行するんですよねぇ。
でもでも、一筋縄にいかないのが
レビーの不思議、ってやつで…。
「捨てられたかと…」って言われても構いませんね。
あんまり無理したら、
時の彼方さんが潰れてしまいます。
それでも、今のほうが可愛いって思えたら、
ちょっとは気が楽かしら。
うちの母の場合、長所で隠されていた短所の部分が
やたらに際立ってきた、っていう感じです(笑)
お母様はもちろんですが、
誰よりも時の彼方さんご自身を、
大切になさってくださいね。
投稿: くりこ | 2009年10月20日 (火) 20時05分